EOR 2026.10.30
IT人材不足は嘘?「2030年に79万人不足」の真相と採用市場の実態を解説
「IT人材不足って本当?」と疑いたくなる理由
「IT人材が不足していると言われているのに、転職活動をしてもなかなか決まらない」
「エンジニア不足のはずなのに、求人が減っているように見える」
「2030年に79万人不足するという話をよく聞くけれど、本当にそんなに足りないのか」
こうした疑問から、「IT人材不足は嘘なのでは?」と感じる人は少なくありません。
結論から言えば、IT人材不足そのものを「嘘」と言い切るのは適切ではありません。
一方で、「IT人材なら誰でも不足している」「今すぐ全国で79万人足りない」と理解するのも正確ではありません。
実際のIT人材市場では、不足している職種やスキルがある一方で、企業が採用を絞っている領域もあります。
つまり、現在起きているのは単純な人数不足ではなく、「企業が求めるスキルを持つ人材が足りない」という需給のミスマッチです。
この違いを理解すると、「人材不足なのに求人が減る」という一見矛盾した状況も見えてきます。
「2030年にIT人材79万人不足」は未来予測のひとつ
IT人材不足について語るとき、よく使われるのが「2030年には最大約79万人のIT人材が不足する」という数字です。
この数字の元になっているのは、経済産業省が2019年に公表した「IT人材需給に関する調査」です。
ここで注意したいのは、79万人という数字が確定した未来ではないことです。
調査では、IT需要の成長率やIT人材の生産性向上などについて複数の条件を置き、2030年の需給ギャップをシナリオ別に試算しています。
2030年の不足数は、
- 高位シナリオ:約79万人
- 中位シナリオ:約45万人
- 低位シナリオ:約16万人
という幅があります。
つまり、「2030年に79万人不足する」という表現だけを切り取ると、調査の意味が変わってしまいます。
正確には、「IT需要が大きく伸びるなど一定の条件を置いた高位シナリオでは、約79万人の需給ギャップが生じる可能性がある」という試算です。
さらに、この調査自体が2018年から2019年にかけて実施されたものである点にも注意が必要です。生成AIの普及や開発生産性の変化など、その後のIT市場には大きな変化が起きています。
したがって、「79万人」という数字だけを現在の採用市場にそのまま当てはめるべきではありません。

では、IT人材不足は嘘なのか
では、古い予測に基づく数字なのであれば、IT人材不足そのものも嘘なのでしょうか。
そうとも言えません。
2026年の採用市場を見ると、企業側が特に求めているのは「即戦力として働ける経験者」です。
dodaのITエンジニア中途採用マーケットレポートでは、2026年3月〜5月に、業務系SE・PGの登録者数が前3か月比113%に増えた一方、求人数は95%に減少しました。
つまり、「転職したいエンジニアは増えているのに、求人は減っている」という状況です。
しかし、その求人内容を見ると、未経験者や若手を広く採用するより、早期に活躍できる経験者を求める傾向が強まっています。
Webサービス系でも、2026年3月〜5月の求人数は前3か月比92%に減少しています。
背景として、生成AIの活用が進み、「従来と同じ人数の開発エンジニアが本当に必要なのか」を再検討する企業が増えていることも指摘されています。
ここから見えてくるのは、
「IT人材が一律に足りない」
という市場ではなく、
「企業が欲しいIT人材だけが不足している」
という市場です。
IT人材不足の正体は「スキルのミスマッチ」
たとえば、企業が次のような人材を求めていたとします。
「AWSを使ったクラウド設計ができる」
「バックエンドだけでなくフロントエンドも理解している」
「要件定義から参加できる」
「顧客とのコミュニケーションができる」
「生成AIを使って開発生産性を高められる」
こうした条件を満たすエンジニアは、それほど多くありません。
一方で、IT業界で働いている人全体を見ると、運用保守を中心に経験してきた人、特定のレガシーシステムだけを扱ってきた人、実務経験が浅い人など、さまざまな人材が存在します。
人数としてIT人材がいても、企業の求人要件に一致しなければ「採用できない」ということが起きます。
これが、IT人材不足の大きな正体です。
特に2026年の採用市場では、専門領域の細分化も進んでいます。
データサイエンティストでも、単に「データ分析ができる人」ではなく、MLOps、機械学習エンジニア、データエンジニア、AIプロダクトマネージャーなど、より具体的な役割で採用する企業が増えています。
人数不足というより、「必要な場所に必要なスキルがない」と考えたほうが実態に近いでしょう。
「求人が減っている=IT人材が余っている」でもない
もうひとつ誤解しやすいのが、求人件数です。
ITエンジニアの求人が減っているのであれば、「人手不足は解消した」と思うかもしれません。
しかし、企業が求人を減らす理由は人材が足りているからだけではありません。
2026年のdodaの調査では、
- 採用計画の見直し
- 景気や企業業績への不透明感
- 金利上昇や資金コストへの警戒
- 生成AIによる業務効率化
- 採用要件の高度化
などが求人減少の背景として挙げられています。
企業側が「10人採用する」計画から「即戦力を3人だけ採用する」計画へ変えた場合、求人件数は減ります。
しかし、その3人に求められるスキルは以前より高くなることがあります。
その結果、
「求人は減る」
「採用基準は上がる」
「条件に合うエンジニアは採れない」
という状況が同時に発生します。
これも「IT人材不足なのに採用されない」という矛盾が起きる理由です。
中小企業では「IT人材不足」をより強く感じやすい
IT人材不足は、企業規模によっても感じ方が異なります。
大手企業であれば、高い給与、知名度、福利厚生、キャリアパスなどを提示してエンジニアを採用できる場合があります。
一方、中小企業では同じ条件で競争することが難しい場合があります。
2025年版中小企業白書では、5年前と比較して採用コストが「増加した」と回答した事業者が約7割を占めています。
エンジニア採用でも、
「求人を出しても応募が来ない」
「人材紹介会社から候補者が出てこない」
「提示された年収が予算を超えている」
「ようやく内定を出しても大手企業に決まる」
といった問題が起きやすくなります。
つまり、日本全体にIT人材が存在していても、社員10名、20名規模の企業から見れば「採用できるIT人材がいない」という状態になり得ます。
IT人材不足は、単純な総人数だけでは説明できません。
未経験エンジニアまで不足しているわけではない
「IT人材不足」という言葉で特に誤解されやすいのが、未経験者の採用です。
IT人材が不足しているなら、
「プログラミングスクールを卒業すればすぐ就職できる」
「未経験でもエンジニアになりやすい」
と思われることがあります。
しかし、企業が不足していると感じているのは、必ずしも未経験者ではありません。
現場で不足しやすいのは、
- 設計から担当できるエンジニア
- フルスタックで動けるエンジニア
- PM・テックリード経験者
- クラウド・セキュリティ人材
- AI・データ領域の経験者
- 顧客折衝まで任せられるエンジニア
など、一定以上の経験を持つ人材です。
そのため、
「IT人材不足なのに未経験求人が少ない」
ことは矛盾ではありません。
企業が欲しい人材と、転職市場にいる人材のスキルが一致していないためです。
生成AIでIT人材不足は解消する?
2026年現在、IT人材不足を考えるうえで避けられないのが生成AIです。
AIコーディングツールを活用すれば、一人のエンジニアが以前より多くの開発業務をこなせる可能性があります。
実際、企業が生成AIの活用を前提にエンジニア採用数を見直す動きも出ています。
その意味では、2019年時点で予測されたIT人材需給と、2030年の実際の需給が同じになるとは限りません。
一方で、AIを導入すればエンジニアが不要になるとも言い切れません。
AIが生成したコードをレビューする。
アーキテクチャを設計する。
セキュリティを確認する。
顧客の曖昧な要望を仕様に変える。
プロダクトとして何を作るべきか判断する。
こうした仕事には、依然として高い専門性が求められます。
生成AIによって「コードを書く人数」は減る可能性があっても、「AIを使いながら成果を出せる高度IT人材」への需要が高まる可能性があります。
IT人材不足は、消えるというより「不足する人材の種類が変わる」と見るほうが現実的です。

IT人材不足の企業が見直すべきなのは「求人広告」だけではない
企業側から見ると、IT人材不足への対策は「求人媒体を増やすこと」だけではありません。
同じ国内市場のなかで求人を増やしても、採用対象者そのものが変わらなければ、他社との争奪戦は続きます。
そこで重要になるのが、採用要件と採用市場の両方を見直すことです。
たとえば、
「特定技術の経験5年以上は本当に必要なのか」
「日本企業での勤務経験が必須なのか」
「東京に出社できる人でなければならないのか」
と考えてみます。
リモート開発ができる企業であれば、採用対象を地方や海外まで広げる方法もあります。
特に海外エンジニアまで採用対象を広げれば、日本国内の限られた経験者だけを取り合う状態から抜け出せる可能性があります。
EORを活用して海外IT人材を採用する方法もある
海外人材を採用するときに問題になるのが、雇用です。
「海外法人を持っていない」
「現地の雇用契約がわからない」
「給与計算や社会保険まで対応できない」
こうした課題への選択肢のひとつが、EORです。
EORとはEmployer of Recordの略で、現地の雇用主体を通じて海外人材を雇用する仕組みです。
現地法人を一から設立せずに、海外人材を自社チームへ迎える方法を検討できます。
Somali EORでは、たとえば日本語でコミュニケーションできるインドネシア人エンジニアを、海外正社員モデルで採用する選択肢があります。
エンジニア人材については、月額30〜40万円台から検討できるケースもあります。スキルや経験、条件によって実際の費用は異なります。
「IT人材が不足しているから採れない」と考えるのではなく、
「国内の限られた市場だけで探しているから採れないのではないか」
と視点を変えることで、採用戦略の選択肢は広がります。
ただし、海外雇用では現地の労働法、税務、社会保険、契約、知的財産などについて確認が必要です。対象国によって制度が異なるため、EOR事業者や必要に応じて専門家と確認しながら運用することが重要です。
まとめ:IT人材不足は「嘘」ではないが、単純な人数不足でもない
「IT人材不足は嘘なのか」という疑問に対する答えは、少し複雑です。
IT人材不足という課題そのものを嘘とする根拠はありません。
一方、「IT人材が全国一律に足りない」「エンジニアなら誰でも引く手あまた」「2030年には確実に79万人不足する」と理解するのも正確ではありません。
IT人材不足について押さえておきたいポイントは次の通りです。
- 「2030年79万人不足」は高位シナリオによる試算である
- 同じ調査には約45万人、約16万人という別シナリオもある
- 調査自体は2019年公表であり、その後生成AIなど市場環境は変化している
- 2026年には一部IT職種で求人減少と転職希望者増加が同時に起きている
- 企業は人数より即戦力・専門性を重視する傾向を強めている
- IT人材不足の実態は「スキルと需要のミスマッチ」と考えると理解しやすい
- 未経験者と高スキル経験者では採用市場が大きく異なる
- 中小企業ほど採用競争や採用コストの影響を受けやすい
- 国内だけで採用できない場合は、海外IT人材まで市場を広げる方法もある
「IT人材不足」という言葉だけを見ると、エンジニアそのものが日本から消えているように感じます。
しかし、実際に起きているのはもっと複雑です。
人はいる。
求人もある。
それでも、企業が欲しいスキルと人材が持っているスキルが合わない。
給与が合わない。
勤務地が合わない。
企業規模や知名度によって採用力にも差がある。
こうしたズレが積み重なって、「採用したいのに採れない」という状況が生まれています。
IT人材不足を考えるときに必要なのは、「不足しているか、していないか」の二択ではありません。
「どの人材が、どの企業で、なぜ不足しているのか」。
そこまで分解することが、IT人材市場を正しく理解する第一歩です。
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